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ARCHIVES2021.03.22

事例報告:一般社団法人パレット

概要

組織名一般社団法人パレット
所在地上益城郡甲佐町横田605-1
代表理事大滝祐輔
年 齢39歳
理 事5名 / 大滝祐輔 米原賢一 米原雄二 藤井将志 多田路央
スタッフ数正社員8名(内移住者5名) / アルバイト18名 (甲佐町、御船町、美里町、八代市 )
種 類一般社団法人
HPhttps://palette-kosa.com/
設立年月日090-7461-9911
連絡先0964-47-1111(美里町役場 砥用庁舎)
業種・旧西村邸(イタリアンレストランTrattoria Sanvito / 旅館業 宿屋Kugurido)
・キャンプ場Common IDOE、パン販売 古田パン
・I・YOUスポーツ&カルチャークラブ、総合型地域スポーツの自主運営、学習室(こども塾夢の扉)
・小学校支援〜担任サポート
・株式会社DRAWING
・NIPPONIA甲佐 疏水の里〜宿泊業、アクティビティ
事業・商品開発 / お土産品開発 谷田病院無農薬人参ドレッシング開発中
・サイクリング 自転車で周れると楽しいスポット巡り
・こうさてんCINEMA
・こうさてんマルシェ
・朝食イベント〜甲佐 朝の市
・肥後かすりの復活

1)設立経緯

 パレットのメンバーの一人である米原雄二氏(37歳)は、家業のガス会社「福田屋」に勤め、学生時代「商店街を盛り上げる」というテーマで甲佐町を考察した経験から、Uターンで帰って来た時、10年後には顧客が300軒ほど減少することを統計的に把握することが出来ていた。なお、この人口減少という商工業者にとっても危機的な状況については、兄の米原賢一氏(39歳)と共に商工会青年部の仲間で「甲佐蚤の市」1を一緒に開催している大滝祐輔氏(39歳、現一社パレット代表)と共有していた。3人は、2017年、移住者で谷田病院に勤めている藤井将志氏(37歳)と総合型地域スポーツクラブの人づくり事業で出会っている。
 熊本地震後、町が主催する旧西村邸の利活用を目指した「こうさてんプロジェクト」2に、甲佐町はこの地元の若者達を誘った。もう一人の移住者である多田路央氏(43歳)は「こうさてんプロジェクト」に参加した時に出会い、5人の飲み会(2017年9月から5~6回)が始まる。飲み会では、まちづくりに関する意見交換から時には飲み会にも関わらずポストイットを使った議論を行うなど、楽しいまちづくりの議論へと発展して行った。(飲み会といっても5人中2人しか飲めない・・・。)
 この5人が揃った飲み会が、「ひとづくりとまちづくり」を目的とする(一社)パレットを生むことになるが、この頃のことを米原賢一氏は、飲みながら話をしている中で、「子供のころの商店街は路面に店を出し、人が行き交っている風景があった。あゆ祭りの時も凄く賑わっていたが、今は寂しくなっている。商店街をどうにかしないといけないという意識があった。」と、振り返っている。
 一方、これらの動きの中で、「株式会社NOTE」3との出会いがあった。藤井氏は介護系の知り合いの紹介で参加した丹波篠山のNOTEのセミナーに参加し衝撃を受けている。今まで皆と話し合っていた「交流人口を増やし、滞在する人を増やし、いずれ定住人口を増やしていくという考え方」が自分たちでも出来る事を確信し、パレットのメンバーと内容を共有した。この頃、多田氏も、甲佐町役場の木山氏もグランメッセで行われたNOTEの講演会に参加しており、偶然にもNOTEと甲佐町を引き合わせる状況が生まれた。このことが、その後、甲佐町にNOTE代表の藤原氏を招き、NOTEとの関係が深まることになる。
 そして、この出会いがパレットの「NIPPONIA 甲佐 疏水の郷」のスタートになった。ここから、甲佐町役場の力を借りながら「農山漁村振興交付金」を活用した調査・研究・計画から甲佐町まちづくり協議会の設立参画、丹波篠山や日南市の視察、空き家活用の勉強会から物件探し、施設活用へと進んでいく。
 法人になる前の主体的な活動がNOTEや町役場を巻き込むことに繋がり、成功への機会も呼び込んだのではないか。
このような過程を経て、2018年4月に「一般社団法人パレット」は設立した。

2)メンバーの構成と特徴

 地域づくりでは、熱い思いの人が集まるもののその思いが強すぎてまとまらなかったり、何かいいことがあるかもしれないと言うだけで集まる人の集まりもある。
 パレットは、それらとは大きく異なる集まりである。5人は、年齢が近いだけでなく、それぞれが異なった役割を担っている。大滝氏は、強いリーダーではなく、ポイントを押さえて組織をまとめるリーダーであり、商工会青年部長の経験を活かし、町とのつながりも深い。米原賢一氏は情報やデザインを担当し、弟の雄二氏は体験メニュー等を得意としている。この3人が活動を引っ張り、それを下支えする外部の視点を持つ藤井氏と多田氏とのコラボは絶妙である。オープンでスピード感もあり、それぞれが主体的で役割をもった多様な集まりでありながら、フラットな感じの集団になっている。
彼らの会議では、徹底した話し合いがなされ、夕方から始めた会議が24時をまわることもある。好きな時に好きなことを言い、やりながら修正していく。事業の実施には、水面下に個々の経験が生かされており、それが揺るぎない事業の展開につながっているようだ。

3)課題解決に向けた行動

 パレットのメンバーは、協調性があり、ゆるい価値観・ネットワークの中で共有化できる地域経営感覚を持っている。これまで、地域づくり団体はボランティア的な要素が多くみられたが、パレットは、地域性と事業性を兼ね備えた取り組み行う「完全に民間主導の自立した団体」であると大滝氏は言っている。
 雄二氏は、「賑わいを生むというだけにはなりたくない。移住定住を目標に掲げ、日ごろから商店街に人が通るような町にしたかった。」と言っている。また、「儲けるのが良くないような風潮があるが、人を雇用し定住させ、税金を納めてもらうのが一番の地域活性化になる、ということをずいぶん周りに話した。その辺の感覚が出来てくるとボランティア精神だけでなくいろんな視点が生まれてくるのを感じた。」と発言している。  
 民間企業も、地域課題への関心を持ち、地域の変革を目指していれば単なる営利団体だとは位置づけられない。所謂、コミュニティ・ビジネスである。
 パレットが運営する地域密着型のイタリアンレストランや宿泊業、スポーツ事業や学習塾などはスモールビジネスであり、住民主体の地域事業でもある。また理事は副業的な仕事であり収入を得ているわけではなく、稼ぎを求めているわけでもない。地域題解決に向けたコミュニティ・ビジネスの活動となっている。
 メンバーは、民間と公益の真ん中ぐらいなので、みんなとやる事業は公益に寄せて地域に落とし込むことだとも言っている。

4)行政の付き合い方、捉え方、関係性の深さ  

 現在、パレットがレストラン事業を行っている「旧西村邸」は、熊本地震後に被災した家屋を再利用するとの方針が決まっていた。2017年に住民ワークショップにより利活用の基本計画が策定されたが、町は、旧西村邸が交流拠点になりうるのか、だれが運営するのかなど、この計画に不安を抱いていた。
この1年目のワークショップの段階ではパレットは設立されていなかった。パレットメンバーもこのワークショップに参加していたが、様子見的な態度であった。この時、彼らは、「事業が成り立つ様にしないと難しい。」との発言をしており、  この発言を聞いた町は「彼らの考え方がこれまでの団体とは違い、可能性を感じた。どうにか彼らを取り込まなければならない。」と、思っていた。
 2018年、2019年と参加者を巻き込む過程を大事にする建物改修ワークショップが、町内外の改修未経験者と共に始まった。このワークショップの過程で、最初はマイナスの発言が多かった役場職員の意識が変わり、プラス志向の発言に変わっていくことが確認できた。担当した山村、木山両氏は、「これまでの行政の仕事では、補助金等の要望を受けて対応する一方通行の事業が多く、また、完成までの過程(プロセス)に関わる機会も無く、今回の経験で、住民が活動し行政が寄り添っていく必要性を感じた」と言っている。
 また、パレットが主体的にやる提案をしてきたので、旧西村邸をパレットに運営してもらうにはどうサポートできるかを考え始めた。この経験が、なぜやるのか(存在意義等)から入ると凄く面白いとの気づきがあった。」と言っている。
 甲佐町は、前例にとらわれず地元のやる人に焦点を合わせたやり方を取った。民間のスピード感に合わせた役場のバックアップ、この役場の立ち回りが良好な関係をつくったとも言える。目標が共有できると、役割の分担も出来、信頼関係も生まれ、関係も提案型になるという事例でもある。

5)地域との関わり方

 パレットは、現在の自分達らしい活動のやり方を、町民全体に強要しようとも思っていないが、将来の甲佐町のイメージをみんなで共有し磨きをかけていくことが大切だと言う認識を持っている。そして、その実践の中で関係人口をいろんな形で作っていければとも考えている。まちづくりは、イベントのような賑わいだけだと一部が疲弊してしまう。一見、効果が見えにくい取組みだが、町民もこの変化を感じている。

6)活動により得られた効果

 甲佐町の持つ価値を再確認した上での新たな活動であり、新しい商売の在り方を考えるきっかけにもなっている。宿泊所も出来て刺激となり、まちづくりに関心のある人が増え、甲佐町は面白い町、活動的な町へとイメージを変えた。このコンセプトが地域全体に広がると町全体が変わると感じる。また事業展開の中で5人が移住するに至ったことは、特筆すべき効果である。その後も、海外からの移住の問い合わせなど、交流人口の増大に向けた動きも現れている。

7)今後の課題と次年度以降の計算

 パレットのメンバーは、事業実施における理念の共有は出来ているが、スタッフ(アルバイト・パート)によっては理念の共有が不十分であると、パフォーマンスが低くなることが懸念される。一方、実務的な体制の整備を行う必要もあり、施設の充実とレストラン等の体制強化、総務、経理の専任の担当者の配置等、今後の持続的な活動の継続を見据えた対応が求められる。
 また、大学等と連携した甲佐町のまちづくり支援も考えており、今後の展開が期待される。

まとめ

 パレットは、設立したばかりであるが、その探求心に溢れた活動は、地域に様々な変化を生み出し、地域社会を変容させ、様々な共振化4が起こっている。このパレットの活動が、甲佐町の転換点になって来るのではないかと考える。行政も、地域住民への寄り添い方や事業化等における支援策も大きく変化すると共に、人材の発掘や育成の重要性にも気づいている。
 今回のパレットの事業化の成功の要因は、行政と民間の信頼関係や事業化の中での学び、フラットな組織運営、地域の公益を意識した事業の推進にあると思われる。今後は、コミュニティ・ビジネス事業として関係者に対する経営面における説明責任を果たすことが求められる。

1.甲佐蚤の市

甲佐町商工会主催。集客は1日で2万人、人口の約2倍。以前は100店舗以上あり、賑わっていた甲佐町商店街に若者を呼び込み、もっと皆が楽しめるような甲佐町商店街にする為、青年部を中心に蚤の市を開催。

2.こうさてんプロジェクト

「甲佐」の地名になぞらえた「こうさてん」には、町内のひとたちが交差する場の意味もある。築140年の旧西村邸を利活用するため参加型のワークショップを開催。関係人口を増やしながら古民家改修を行う。簡易宿泊所とカフェレストラン、地元の拠点となる場づくりが出来た。3年間のワークショップの参加者 合計645名(行政及び主催者関係除く)。

3.株式会社NOTE

「なつかしくて、あたらしい日本の暮らしをつくる」理念の元、土地の歴史文化資産を尊重したエリアマネジメントと持続可能なビジネスを実践している。

4.様々な共振化

同時期にオープンしたコンフィチュール焼き菓子のmelanger(メランジェ)、セレクトショップ「NEWOLD」、甲佐町に影響を与えたダイニングスペース樂時や(株)ミズタホームの「やまぼうしの樹」や「ヨリドコロえんがわ」等が相乗効果を生んでいる

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